ジェネリック医薬品と中国の英雄⑦

■Cyno社の実状

インドにあるタタ記念病院にコンタクトを取り、そこで12年間働いている医師に問い合わせたところ、医師はインド国内で数千人のがん患者を治療してきたがCyno社の名前を聞いたことがないと話していました。

またインド食品医薬品局(Central Drugs Standard Control Organization)はデリーの中心部にある白い建物の中に位置しています。ここにいるスーツを着た男性に調査を依頼しました。彼は過去6年間食品医薬品局(FDA)で働いており、食品医薬品局(FDA)のWebサイトを利用して調べてもらったところ、Cyno社を見つけ出すことができませんでした。これは疑わしいとも話していました。

Cyno 社は市内中心部にある小地区に住所を持っています。しかしそこにはCyno社の標識もありませんでした。住所に存在する三階建ての建物の壁は剥がれ落ち、周りの看板は曲がり落書きがあるような状態でした。建物周辺には野犬が歩きまわるような場所でした。

Cyno社は建物の2階にありました。監視カメラが備え付けられ、建物自体には入口と玄関がありますがCyno社のいかなる標識もありませんでした。

この小地区で長年おもちゃ店を営んでいる主人はここで長年暮らしているが今までここがCyno社と呼ばれているとは聞いたことがありませんと話していました。しかし親切な店主はグーグル検索を使って探してみるとCyno社の住所はPreet Viharにあると出てきました。Cyno社は製品に記載している住所はグーグルマップの上で存在しています。地下鉄Preet Vihar駅の近くにある赤茶色のビルの中にあります。建物の左わきにある階段を上ると3階にGukka Pharmaceuticalsの看板が大きくかけてあり中では従業員の働いている声が聞こえてきます。Gukka社とCyno社の両社に所属するSanjayはGukka社で一般薬、Cyno社で抗がん剤を生産しています。中国の英雄とSanjayは良い友人関係であり毎回インドを訪れるたびに会っています。英雄は私にインドの製薬会社のオフィスはとても小さく、中国人が好む大きなオフィスではありませんと話してくれました。

■Natoco社とCyno社

Cyno社は彼が最初に助けを求めてコンタクトを取った製薬会社ではありません。最初インドで訪れたのはNatoco社の社長のもとにであり、効果のある医薬品を安く中国に売ってほしいと望みました。ムンバイのホテルで彼とNatoco社の社長は食事を取りながら一時間ほど会談をしました。中国の慢性骨髄性白血病(CML)の患者数は百万人を超えており社長はとても関心を持ちました。それは英雄の巧みな案内によるものです。

その二か月後彼は再びNatoco本社に出向き会談を行いました。そしてNatoco社の担当者は中国にやってきて中国市場は彼が言う通り巨大なマーケットなのかどうかを調査すべく中国医学に携わる保健省と上海の赤十字財団に彼と共に回りました。しかしその後Natoco社は彼と連絡を取る事はありませんでした。

Natoco社は我々の見積もる患者の数字はそれほど多くなくまた情報も正確ではありませんでした。その為我々の医薬品は中国では成功しないであろうと考えました。中国健康省との関係やトラブルを考えると上場企業であるNatoco社は中国市場を信じ切ることはできなかったとみられます。

一方彼はCyno社へ医薬品を製造して直接中国に医薬品を販売するように勧めました。そして実際に販売するようになるのです。前述のNatoco社とCyno社はビジネスモデルが異なり、Natoco社は大量の医薬品を数千人規模で販売しますが、中国の患者たち一人ひとりに連絡を取る事は並大抵のことではないと述べています。

それから彼はCyno社の生産医薬品を進め始めます。彼が言うにはやはりCyno社とNatoco社はビジネススタイルが異なるとのことでした。Cyno社の担当者は自社の製品を偽物と思わず服用してくださいと述べました。完全にすべてのライセンスを持っている製品であると強く主張しています。

 

※本連載トピックスのその他記事は以下よりご覧ください。

ジェネリック医薬品と中国の英雄①

ジェネリック医薬品と中国の英雄②

ジェネリック医薬品と中国の英雄③

ジェネリック医薬品と中国の英雄④

ジェネリック医薬品と中国の英雄⑤

ジェネリック医薬品と中国の英雄⑥

ジェネリック医薬品と中国の英雄⑥

■Cyno社の苦悩

北京にある慈善基金団体の会長は彼の病気の話を聞き、彼の治療の近況を知るべく一通のメールを送りました。しかし会長の興味は今日は彼の名前ではなく(実際に知ったのは12年後)またジェネリック医薬品購入に対する違法性の有無でもなくインドジェネリック製薬会社 Cyno社の名前そのものなのです。

会長はCyno社の名前を聞いた事もありませんでした。会長はCyno社製の抗がん剤Imacyを必要とする治療患者を探していました。しかし当時は製品の中に説明書すらなく、製品保証や中国名表記、住所も記載されていない非売品として見られてしまいました。また会長は世界ガン大会で知り合ったインド人医師にメールを書いてこの製薬会社(Cyno社)の存在を知っているかと尋ねたところ初めて聞く会社だと答えられました。慈善基金団体の答弁の中で患者たちへCyno社製の薬は服用してはいけないと説明しました。Natoco社の製品がまとめ売りされているなかで中国人の彼の宣伝を踏まえながら、もしこの2種類の薬(Natoco社製とCyno社製)を一緒に手に入れたとするならば、Cyno社製はすぐに捨ててしまいなさいと言っています。

いえいえ、そんなことはないです。インタビューの時に中国の英雄はCyno社のネガティブプロモーションを否定しました。わたしはただ必要な薬を提供・案内しているだけだと述べ、病気の人を助けたいというだけですと述べました。Cyno社がビジネスをはじめ、市場に出回るようになりましたが私の影響力は病人を助けたいと思いだけで活動していると思ってほしいとも話しています。

■ジェネリック製薬会社の実態

中国の杭州、蘇州、無錫、成都で開催された医薬プロモーションで正式に医療患者へCyno社の紹介がされました。また中国の英雄はこのプロモーションを支える存在となりました。

中国杭州で行われる医療会議を有意義なものとすべく浙江省にある中国医学病院の医師は2000元の講義出演料を出してまで招待するようになりました。

ウェブサイトdrugsupdateではインド生産のグリペックのジェネリック医薬品はNatoco社以外にも7社あるといっています。Sun社、Lupin社などインドでは10の製薬会社が名を連ねていますが価格はNatoco社とほとんど同じです。しかし英雄はCyno社だけを勧めると言っています。理由はとても簡単で、Cyno社の製品は最も良いと一言だと推薦しています。改良されたベータ結晶型を使用しており、きちんと生産許可証を取得していると述べました。他の薬の事はよくわかりませんが唯一わかっていることはNatoco社のグリペックのジェネリック医薬品は第一世代のαベータ結晶型であると述べています。

インドデリー市の南東部にオフィスがある「国境なき医師団」の女性にインドの製薬会社をどのように区別をしてくのかと尋ねたところ「それはとても難しい」という回答が返ってきました。インド政府はいくつかの医薬品を見直して製薬会社を管理しようとしています。しかし製薬会社でも医薬品の代理製造を委託しています。女性の知人のNatoco社の社員が話すには、Natoco社のグリペックのジェネリック医薬品もベータ結晶型であると話しています。

薬局のマネージャーであるユヌスは仕方がないとはなしています。何が医薬品の真贋であるか特定できないと話しています。インドの医薬品市場を管轄している機関ではレポート「インド時報」ではインド生産の医薬品の25%がニセモノであると述べ、ニセモノ市場は今後100億ドルに達するだろうとみられています。しかしながらニセモノの発見・特定は難しく、検証する権限すら持っていません。実際に偽造医薬品の製造は現実的におこなわれており、一定の有効主成分も含まれている場合もあります。その為ユヌスは購入する場合は定期的に通っている薬局で手に入れるようにと話しています。

 

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